ピザ屋の裏話その⑤ -車が動かない!-
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北海道の冬は雪が積もる。
ほとんどの人は知っていると思うが、車の運転も大変なのだ。
まず道が滑る。
積もったばかりならまだいい。
車は重いのである程度は雪を押しのけてタイヤがアスファルトに触れながら
走ることができるのでブレーキもハンドルも効く。
だが降雪量が多くなると車が走ることによって圧雪になっていく。
スキー場のゲレンデと同じになるのだ。
さらに日中は気温が高い分、雪の表面がわずかに溶けて水の膜になる。
そして夜になり気温が下がるとその水が再凍結して氷になる。
こうなるとスキー場どころかスケートリンクだ。
スタッドレスを履いていてもスピードが出ているとブレーキはほとんど効かない。
自損で済めばいい方で、他人の車にぶつけたり、対人事故だって十分に起こり得る。
そんな交通事情になる冬の北国の道を、ただの学生アルバイトに運転させる
ピザ屋というのは実にリスキーな商売だと思う。
そんな冬の道で配達の仕事をしていた私だったのだが、
その日は途中から異常な降雪で前が見えなくなるくらいだった。
そして道にも雪がどんどん積もり、除雪もとても追いつかない。
夜だったので雪は全然溶けず、積もっていく一方だ。
そんな状態で私は大通りから一本中の路地を走っていた。
客の家まではまだ距離があったが、交通量の少ない裏通りを通るためだ。
しかし除雪は大通りが優先されるため、裏通りはすごい雪の量だ。
車が通ったところだけが凹んで"轍(わだち)"になっている。
私もこの轍に沿って走らざるを得ない。
すると途中でスピードが緩み、加速ができなくなった。
そのうちに車は完全に止まり、いくらアクセルを踏んでも進まない。
外に出てみると轍が深くなりすぎて車のタイヤが浮いていた。
跳び箱に跨った子供のような状態だ。
こういうのを"亀になった"というらしい。
これではいくらアクセルふかしても進むわけがない。
降りしきる豪雪の中、私は車に積んであったスコップを使って
車体の下にある雪をひたすら掻き出したのだが、人力ですべてを取り除くのは無理だ。
寒さで体力も持たなくなったため、公衆電話に走りマネージャに救援を求めた。
助けに来てくれたマネージャは地元の人ということもあって慣れたもので、
わけもなく私の車をロープで牽引して引っ張り出してくれた。
そしてずぶ濡れになった私はそのままお客さんのもとへ急ぎ、ピザを届けた。
車の救出に1時間以上かかったため、すっかり冷たくなってしまっており
とても代金をいただくことはできなかった。
お客さんもずぶぬれになっている私の姿を見てさすがに哀れに思ったのだろう、
遅れたことを特に責めることなく黙って受け取ってくれた。
今思うと、あんな仕事を5シーズンもやっていてよくケガしなかったものだ。
一歩間違えればいつ死んでもおかしくないような道路事情だ。
学生なんて気分ひとつで結構無茶もするし実際してた。
最近久々に雪国で冬の運転をしたが、怖くて全然スピードを出せなかった。
ちょっとでも油断すると車がすぐ横向いちゃうし。
100m手前でも歩行者信号が点滅したらもう止まる準備してないと非常に怖い。
雪道で一番危険なのは実は"慣れ"なんだろうな、と痛感する。