学生時代のプロレス行脚の旅日記その②。
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↓ 前回のお話
山形から翌日にまた1日かけて東京に戻った。
この日は首都圏で目ぼしいプロレスの試合がなく、夜に時間が余ってしまうため、
私はセ・リーグはヤクルト、パ・リーグはオリックスのファンだ。
この年は両チームともに快進撃で、ついに日本シリーズで夢の対決となった。
以来、両者の同時優勝はない。
オリックスに至っては1995-1996の連覇以来、優勝自体がない。
揃ってビリという"裏日本シリーズ"はここ2年連続でトータル3回もあるけど・・・
なんでどっちもこんなに酷い球団になっちゃったんだろ。
この夜もヤクルトは強い試合を見せてくれて大満足だった。
特に阪神からきたオマリーと、ロッテからきたミューレンの活躍が目覚ましい。
日本人選手も、2年連続で西武との死闘を経験した古田や池山、飯田が健在であり
野村監督の存在感の強さも相まって魅力満載のチームだった。
今みたいな隙だらけの雑な野球をするチームになってしまうとはなあ・・・
翌日はまたプロレスだ。
東京ディズニーランドのほど近くにあり、高級感漂う外観の会場だ。
この日のメインは田村潔司とゲーリー・オブライトのシングルだった。
この試合の2ヶ月前に両者は対決しているが、オブライトが無気力でまともに田村の
相手をしようとせず、田村が涙を流して悔しがったいわくつきのカードだ。
この日のオブライトは田村と真摯に向き合っているように見えた。
最後は田村が見事に勝ち、メインの務めを立派に果たしたが見せ場は試合後だった。
控室にいたであろう高田を名指しして
「高田さん、僕と真剣勝負して下さい!」
とマイクで叫んだのだ。
UWFの看板を背負った団体の選手が「真剣勝負を」と言ってしまった。
この発言はややもすればこれまで積み上げてきたUWFの歴史を否定することにもなる。
それだけ田村がそのときのUインターの状況、つまり新日本との対抗戦に
舵を切ろうとしている団体の方向性に納得がいかなかったのだろう。
高田は田村の要求には特に応えず舞台袖に姿を消した。
だが2人のシングル対決は7年後の高田の引退試合で実現することになる。
壮大なアングルと伏線回収だったのかもしれない。
翌日は全日本の後楽園ホール。
サマーアクションシリーズ2の開幕戦だったがカードはすっかり忘れてしまった。
鎖国真っただ中だった全日本なので特に目新しい選手やドラマがあるわけではない。
でもやっぱり"絶対に期待を裏切らない"という安心感が他団体とは段違いだ。
第1試合からしっかり会場が温まっていき、休憩前にファミ悪決戦で肩の力を抜く。
そして後半に入って徐々に雰囲気が盛り上がりメインで爆発、という具合だ。
私が後楽園で全日本を見たのはこのときの1度だけだが、首都圏のファンは
こんなにクオリティの高い試合をいつでも見られて羨ましい、と感じたものだ。
デスマッチ・トーナメントを目玉に据えたこの大会は試合数も多く、
さらにデスマッチということで試合ごとに準備に時間がかかる。
そのため、試合開始が午後2時という灼熱の時間帯だった。
真夏の屋外球場でこの時間設定はやる方も見る方もキツい。
後で自分の体を見るとあちこちが日焼けで水膨れになっていて大変だった。
試合はまあ予想通りというか、なんでもアリの独立団体らしさ全開という感じだ。
有刺鉄線ボード、有刺鉄線グルグル巻きバット、画鋲、爆弾・・・
特に画鋲はファンにとっても非常に身近なものとあって反響は大きかった。
無数の画鋲が背中に突き刺さっている画は非常にシュールだ。
だが物理的に考えると画鋲の数は少なくした方が絶対痛い。
痛みが全然伝わらないからそうしないんだろうけど。
でもやっぱりプロレスは集中力が削がれてしまう屋外は合わない。
窓のない密室で行われることで非日常感が味わえるのがいいのだ。
観客動員はIWAジャパンの体力を考えれば大健闘だったと思う。
団体スタッフの皆さんもあの客入りを見て嬉しかったんじゃないだろうか。
私が事前にチケットを電話予約したとき、受付のお姉さんとこんなやり取りがあった。
「帰りの列車の都合があるので試合終了予定時刻を教えてもらえませんか」
「どちらから見にいらっしゃるんですか?」
「札幌からです」
「さ、札幌!遠方からどうもありがとうございます!」
ものすごく感謝された。
お姉さんが教えてくれた時刻近くで試合はちゃんと終わった。
私は上野駅に向かい、青森行きの夜行急行列車に乗って帰路に就いた。
さすがにここから鈍行だけで札幌に帰るだけの体力はないと思ったからだ。
今思えばよくもまああんな無茶なスケジュールを組んだものだと思う。
若さももちろんあるが、当時のプロレスを本当に楽しんでいた、ということだ。
私のプロレス熱もこの頃をピークに冷めてしまい、間もなく見なくなってしまった。
私のような昭和から見ているファンは、エンタメとして割り切って楽しんでいる
今のファン気質についていけない。ルチャだけは最初からそういうものだと思って
見ているので抵抗はないのだが、やっぱりあの頃の殺気とか驚きが恋しくなるのだ。
ハンセンが全日本に、ブロディが新日本にそれぞれ初登場したときのあの衝撃。
情報網が発達した現代ではまず起こり得ないサプライズだ。
もうあの頃には決して戻れない。
当時のDVDを見て妄想に浸るのが一番良さそうだな。